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東北ハーモニカフェスティバル、そして被災地へ
東北のハーモニカ愛好者が一堂に会する「東北ハーモニカフェスティバル」は今年で30回という節目。開催が危ぶまれたものの関係者の尽力で、10月9日、原発の災禍に揺れる福島市の公会堂を会場に無事終えることができた。開催できてよかったね、そんな喜びの声があちこちで聞かれた。私たちThe Who-hoooはこの日、稲川有徳さんとともにゲストとして招かれていた。
先の震災で仲間が亡くなったり、家が壊れたりといった心に痛手を負った人たちが、それでもハーモニカでつながろうと懸命の努力を積み重ねた。演奏する人も聴きに来る人も思いは一緒だった。元気にがんばっぺ! 演奏することで、私たちも東北の人々と繫がりたかった。そしてこの目で被災地を見ておかねばとも思った。
10月10日、東北ハーモニカ連盟会長の木村正義さんの車で相馬市、南相馬市に向かう。福島盆地の山間に点在する田んぼは収穫を終えた稲が掛け干しされて、放射能の線量検査を待っていた。伊達地方の山深い地はあんぽ柿の産地としてつとに知られる。本来なら柿ばせと呼ばれる小屋の軒下に、朱く色づいたあまたの柿が吊された光景を目にできる。が、ことしの小屋はひっそり閑散としている。放射能さえなければ……。柿で生活を支えていた人々の暮らしはどう保証されるのだろう。それよりも人々はいまどこにいるのだろう。人の気配がない。聞けば計画的避難区域に指定されたところもあるという。
木々の葉が色づき始めた山を縫って一路相馬市へ。霊山のあたりは紅葉狩りの名所という。今年は人が来るだろうか。民家の瓦屋根の棟がブルーシートで覆われている。屋根職人の人も資材も間に合わずの応急処置だ。
海に近づくと、海水に浸かってドブと見まがうほどに腐り果てた田んぼが広がる。津波に押し流された白い車や漁船があの日のままに時を止めて瓦礫のなかに打ち棄てられている。
相馬市、松川浦。水産物直売センターの周辺には旅館や民宿が軒を並べ、震災さえなければ海の幸を求める観光客で賑わっていたはずだ。いま埃っぽい海沿いの道に人影はない。ガラス戸は割れ、調度品は流され、日常を壊されたがらんどうの建物が続く。この一帯はあの大津波で水没、行方不明も含め450人を超える住民が亡くなった。町は一変し、人々の声はどこかに消えてしまった。
海沿いのあれはホテルだろうか、レストランだろうか。コンクリート壁はすっかり剥がれ、ぐにゃりと曲がった赤茶けた鉄骨だけが何本もむき出しにされている。建物はかろうじて太い鉄骨の柱だけで支えられ、無惨な姿を潮風に晒している。
このあと南相馬市にも向かった。田畑に十数艘もの漁船が打ち上げられたままの不可思議な光景。基礎を残して跡形もなく流された家々。橋桁だけを残し流された橋。ボコボコにへこんで積み重ねられた車。テレビや雑誌からは伝わらない津波の凄まじさを実感する。何よりも目に見えない放射能の恐怖が常に脳裏を離れなかった。
あらためて被災地の人々の心中に思いを馳せた。
「関東ハーモニカリーグ」寄稿