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2010年11月07日
自費出版文化賞表彰式に臨んで
過日、拙著『あつぎハーモニカ物語』の入選を機に、「第13回日本自費出版文化賞」表彰式に臨み、受賞者のスピーチを聞いた。
今年の大賞は対馬の歴史に敢然と挑み、全三巻、千ページを超す大著にまとめた『対馬国志』という本だ。満九十歳になるという著者の永留久恵さんは兵役で海軍に従軍、真珠湾攻撃やミッドウェイ海戦にも立ち会った経験を持ち、その後何度も大陸の地を歩き、歴史研究を始めたきっかけなどを話された。
飄々としかもかくしゃくとした語り口は心震わすものだった。国防とは軍事力に頼らず隣国との友好と言い切る永留さんの口元はとりわけきりりと引締る。
最初、出版社に出版を要請したが売れる見通しがたたないと断られた。既に著名な出版社の著作もある永留さんにしてそうだ。そこで郷土史の研究などを通じて付き合いのある人の力を借りての今回の出版だった。
自ら紙を漉き、雪深いふるさとの四季をつづり和綴じで製本した新潟の小林さん、人々に疎まれながらも豚飼育に人生を賭けた人に寄り添う香川の山地さん、遊びは生きる力を育む、もう一度昭和の子どもの遊びをとイラストと解説文で綴る熊本の原賀さん。そのどれもが丁寧な手仕事を感じさせ、本作りへの思いは強く深い。
自費出版というとその質において負のイメージで語られがちだが、商業出版とは別の価値観、個人の熱い魂に貫かれた文化創造行為であり、民衆の側に立つ歴史の証言でもあるということをあらためて認識する機会を得た。
(写真は中山千夏さんと)