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三菱一号館美術館
東京の都心、丸の内にレンガ造りの真新しい美術館がことしの春、オープンしました。「三菱一号館美術館」と言います。東京駅舎が取り壊されてさみしかったところへ明治の洋風建築の復活は本当にうれしいニュースといえます。
この「三菱一号館」の前身は明治27年に英国人建築家ジョサイア・コンドルによって設計された19世紀後半の英国様式の建物で、昭和43年に老朽化のため解体されたままだったようです。40年の時を経て、当時の設計図をもとに同じ地に復元され美術館として再生したのです。
ざっと歴史をたどれば、土佐藩の海運業で富を得た岩崎家は明治維新後に三菱を興し、この地に土地を取得、銀行、事務所として使用するため三菱一号館を完成させたのでした。丸の内初の洋風建築です。明治の人々にもさすがにモダンな建物に映ったことでしょう。
当時、既に三菱にはこの一帯に美術館や劇場を作る計画があったそうで、コンドルは「丸の内美術館計画」と銘打った図面を残しているそうです。しかしその計画は日の目を見ずに頓挫し、一世紀ののちにようやく美術館の開館へとこぎつけたわけです。
三菱の夢が実現したことは私たち絵画ファンにとってはたいへん喜ばしいことです。開館記念の第一弾は印象派のみならず19世紀の近代美術に大きな影響を与えたエドゥアール・マネの作品を集めた「マネとモダン・パリ」展。話題を呼んで連日多くの来場者で賑わっているようです。僕も先日、観に行きました。
女流画家でもありマネのモデルとしても著名なベルト・モリゾを渾身の筆で画いた「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」がやはり一番すばらしく、いつまでもその絵の前にいたいほどでした。知性と気品にあふれた美しいモリゾがいまそこに息づいているようにさえ思えます。マネの愛情が丁寧な一筆一筆にこめられた大傑作と言ってもいいでしょう。
絵で心熱くしたあとは美術館裏の庭園で一休み。都心とは思えない車の音も排気ガスも気にならない静かな場所で、白樺などの木々や草々の緑の間にところどころ真っ赤な花が顔をのぞかせる心休まる空間です。わたる風が頬をなぜ、噴水池脇の木陰のベンチの特等席に腰を下ろして木の葉のそよぎを眺めていると時さえ忘れるようです。猛暑をよそに木陰と風のありがたさを肌で実感するひとときでした。
たとえ美術館に入らずともこの庭園は何度でも来てみたい嬉しいオアシスです。白状すれば、ここに憩うご婦人方にも心奪われました。その上品な着こなしからちょっとした物腰までモリゾに引けを取らぬほど魅力的な方々ばかりに見えました。場所の効用というわけではないのでしょうがさすが東京の真ん中です。
何年か後には赤レンガの東京駅も復元、歴史を感じさせるこの界隈の魅力がいっそう増しそうで本当に楽しみです。